非線形速度過程を示す薬物とは、 代謝酵素が飽和することにより血中濃度が急上昇するタイプのものである。
※ほとんどの薬物は、投与量を増やすと血中濃度が投与量に比例して上昇する線形の薬物動態を示す。
その中の1つの例として今回パキシル®を取り上げる。
①パキシル®の5mg製剤の意味
パロキセチンはSSRIとして多く処方されている。
急激に中止した際は、「中止後発現症状」が多く報告されている。
2010年より最小用量が5mgとなっている。
漸減できるように製剤が増えたことになる。
※5mgは減量か中止にしか基本使えない
重要な基本的注意に記載されている。
「 原則として、 5mg錠は減量又は中止時のみに使用すること」
②中止後発現症状(離脱症状)
「めまい」、「知覚障害」、「睡眠障害」、「不安」、「焦燥」、「興奮」、「嘔気」、「振戦」、「錯乱」、「発汗」、「頭痛」、「下痢」などの症状が起こる。
なぜ起こる?
非線形速度過程を示す薬物であるため、中止により急激な血中のセロトニン不足が起こってしまう。
・機序について
投与中は生体内のセロトニン量が増加することにより、 末梢のセロトニン受容体の感受性が低下する
↓
投与中止により、セロトニン受容体の作動に必要なセロトニン量が確保できなくなる。
↓
相対的なセロトニン欠乏状態となる。
症状の多くは投与中止後数日以内に現れる(多くは2日以内)、
2週間程度でおさまることが多い。
回復に数か月要する場合があるの注意が必要
※5日以後に発現することは非常にまれと言われている。
添付文書上の記載(重要な基本的注意)
・中止に関しての記載(かなり具体的に記載されている)
「 投与中止(特に突然の中止)又は減量により、めまい、 知覚障害(錯感覚、電気ショック様感覚、耳鳴等)、 睡眠障害(悪夢を含む)、不安、焦燥、興奮、意識障 害、嘔気、振戦、錯乱、発汗、頭痛、下痢等があら われることがある。症状の多くは投与中止後数日以内にあらわれ、軽症から中等症であり、 2 週間程で軽快するが、患者によっては重症であったり、また、 回復までに2 、3 ヵ月以上かかる場合もある。これまでに得られた情報からはこれらの症状は薬物依存によるものではないと考えられている。 本剤の減量又は投与中止に際しては、以下の点に注意すること。
1)突然の投与中止を避けること。投与を中止する際は、患者の状態を見ながら数週間又は数ヵ月かけて徐々に減量すること。
2)減量又は中止する際には5mg錠の使用も考慮すること。
3)減量又は投与中止後に耐えられない症状が発現した場合には、減量又は中止前の用量にて投与を再開し、より緩やかに減量することを検討すること。
4)患者の判断で本剤の服用を中止することのないよう十分な服薬指導をすること。また、飲み忘れにより上記のめまい、知覚障害等の症状が発現することが あるため、患者に必ず指示されたとおりに服用するよう指導すること」
↓
ハイリスク薬でもあるため、自己調節や自己中止がいかに危険なことか
しっかり指導する必要がある。
また、中止後発現症状が出た場合は、元の用量に一旦戻すことも有効である
ことは知っておくとよい。
③非線形速度過程を示す薬物(血中濃度が急激に上昇するタイプ)の例
テルミサルタン(ミカルディス®)
フルボキサミン(ルボックス®、デプロメール®)
フェニトイン(アレビアチン®)
プロパフェノン(プロノン®)
アプリンジン(アスペノン®)
イトラコナゾール(イトリゾール®)
テオフィリン(一部の人)
ゾニサミド(エクセグラン®)
フェンタニル(デュロテップ®)
シベンゾリン(シベノール®)
ベプリジン(ベプリコール®)
エリスロマイシン(エリスロシン®)
アジスロマイシン(ジスロマック®)
クラリスロマイシン(クラリス®)
タクロリムス(プログラフ®)
等
上記のようにとても沢山の薬剤が存在する
参考資料
パキシル®添付文書、インタビューフォーム