抗菌薬は一般的な話として「下痢」という副作用はよく知られている。
マクロライド系抗菌薬としては注意する副作用は、
消化器症状(悪心・嘔吐・下痢など)や肝障害である。
その中で、マクロライド系抗菌薬は、
他とは違った理由で「下痢」を引き起こしやすい。
そのことについてざっくりと整理する。
①下痢を引き起こす理由
マクロライド系抗菌薬は、
消化管蠕動ホルモンであるモチリン様の作用をする
モチリン受容体に作用し、アゴニストとして働く。
消化管運動機能を向上させる。
空腹期強収縮運動interdigestive migrating contractions(IMC)
を亢進させ、水分吸収を抑制することで下痢を引き起こす
※ひどくて対策がいる場合
整腸剤ではなく消化管運動調整薬を用いると良い。
※マクロライド系抗菌薬はモチリンと構造(形)が似ている。
マクロライド系抗菌薬の例
・クラリスロマイシン(クラリス®)
・エリスロマイシン(エリスロシン®)
・ロキシスロマイシン(ルリッド®)
・アジスロマイシン(ジスロマック®)
など
モチリンって?
空腹期強収縮運動interdigestive migrating contractions(IMC)を
制御しているのがモチリンというホルモンである。
ほとんどの消化管ホルモンは食べることに反応して放出されるのに対し、
モチリンは空腹時、
胃および小腸に食物がなくなった時期に
十二指腸や上部空腸から約100分の間隔で放出され、
食べることによってその分泌が止まる。
※モチリンは22個のアミノ酸よりなり,十二指腸から上部空腸に存在するクロム親和基底顆粒細胞より分泌される.
空腹期強収縮運動interdigestive migrating contractions(IMC)の役割って?
空腹時に1~2時間ごとに胃から始まり、
回腸末端(盲腸前)まで伝わっていく周期的な強い収縮運動
胃のIMCは、
固形物や腸上皮(脱落した分)の排出、 腸内細菌叢の制御を行っている。
補足:エリスロシンとヘミケタル
マクロライド系抗菌薬であるエリスロシンは別の理由でも「下痢」を
引き起こしやすい。
エリスロマイシンは胃酸で分解されヘミケタルを生じる。
このヘミケタルが下痢や上腹部不快感などを引き起こす。
参考資料
モチリンとその臨床応用 伊藤漸ら 日消誌 93 ( 8) 517-529, 1996
胃酸分泌,胃内分泌そして胃運動 本郷 道夫
化学と教育 65 巻7 号(2017 年)p356-357