まず貧血に使われる漢方薬としては、「十全大補湯」、「帰脾湯」、「当帰芍薬散」、「人参栄養湯」などがある。
多くの場合、鉄欠乏性貧血に対して 鉄剤と併用して用いられる。
今回は「人参養栄湯」について紹介する。
①構成生薬
当帰(とうき)、芍薬(しゃくやく)、地黄(じおう)
白朮(びゃくじゅつ)、茯苓(ぶくりょう)、人参(にんじん)、
甘草(かんぞう)、
桂皮(けいひ)、黄耆(おうぎ)、遠志(おんじ)、陳皮(ちんぴ)
五味子(ごみし)
漢方的考え
当帰(とうき)、芍薬(しゃくやく)、地黄(じおう)
→補血作用
「白朮(びゃくじゅつ)、茯苓(ぶくりょう)、
人参(にんじん)、甘草(かんぞう)」
→四君子湯
「人参」+「黄耆」→「参耆剤」という。
「人参」は不足した気を補う作用
「黄耆」は補充した気を巡らす作用
これについては別にまとめる予定。
※体内に冷えが滞りがあり血が不足したものに用いる。
血虚、気虚を伴う疾患に用いられる。
②効能・効果(添付文書上)
ツムラ
「病後の体力低下、疲労倦怠、食欲不振、ねあせ、手足の冷え、貧血」
クラシエ
「病後の体力低下、疲労倦怠、食欲不振、ねあせ、手足の冷え、貧血」
→全く同じ記載となっている
③貧血効果に関するメーカーへの問い合わせ
ツムラ
効能効果に「貧血」とあるが、とくに鉄の吸収が良くなるとかそういったデータがあるわけではない。古典より用いれているため記載してあるとのこと。
クラシエ
メーカーとしてのデータはないが、いくつか論文があるとのことで紹介してもらった。今回は、この問い合わせがきっかけでまとめている。
④論文をざっくり整理すると
論文はいくつかあるが、2パターン存在する。
①鉄剤と併用して検討されたもの
②単剤にて検討されたもの
Hb、血清鉄
人参養栄湯単独群では12週間後に有意差があり、
鉄剤単独、鉄剤と人参養栄湯併用群では、2週間後から有意差がある
赤血球数
人参養栄湯単独群では有意差は出てないが、12週まで緩徐に増加している。
鉄剤単独、鉄剤と人参養栄湯の併用群では2週間後から有意差があり、
併用群の方が赤血球数は増加している。
人参養栄湯単独群について
服用6週間頃より増血傾向。
12週間後より正常域に達するものもあった。 全16週間まで経過をみて正常域に達しないものもいたとのこと
⑤人参養栄湯の増血作用について
・食欲増進による食物からの増血成分の吸収促進
・多能性幹細胞の活性化作用
などが考えられる。
そもそも、鉄剤は「むかつき」などがあって服用困難者も少なくない。
効果は緩徐であるが、人参養栄湯単独でも長い目でみれば貧血を改善する可能性があるというのは明るい情報だろう。
参考資料
ツムラ、クラシエ 人参養栄湯添付文書
ツムラ、クラシエ 問い合わせ
安藤規雄:産婦人科領域における貧血に対する人参養栄湯の単独使用による増血効果について.日本東洋医学会誌,50(3):461-470,1999
Miura, S., et al.:Int.J.Immunopharmacol.,11,771,1989
柳掘厚, 他: 鉄欠乏性貧血に対する人参養栄 湯の効果, 臨躰と研究, 72(10), 2605-2608,1995