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循環器 感染症・抗菌薬 歯科

アモキシシリンと感染性心内膜症の予防~歯科治療(抜歯)の時など~

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歯医者からの処方せんで
「アモキシシリン250mgの8カプセルを処置の前に服用する」
といったものを初めて見たらびっくりするのではないだろうか。
量は?保険は?色々頭の中を回る・・・
ガイドラインに色々書かれているのでざっくりまとめることにした

① 感染性心内膜炎(Infectious endocarditis)とは

弁膜や心内膜,大血管内膜に細菌を含む疣腫(ゆうしゅ)(vegetation)を形成する。それにより、
菌血症、血管塞栓、心障害などを引き起こす「全身性敗血症性疾患」である。
菌の塊の一部が剥がれて全身の臓器を詰まらせる(塞栓症)リスクがある。

※ 疣腫(ゆうしゅ) :細菌が心臓にくっついて作る感染巣 ・いぼ

・年間10万人あたり3人から7人程度。男性の方が多い。
・一旦発症すると、多くの合併症を引き起こし、死に至る場合がある
※ 無治療の場合、発症から死亡までの期間は急性心内膜炎で1.5か月、
亜急性心内膜炎で3か月程度

非細菌性血栓性心内膜炎との関連

非細菌性血栓性心内膜炎(nonbacterial thrombotic endocarditis:NBTE

MSDのマニュアルを引用
「外傷,循環血液中の免疫複合体,血管炎,または凝固亢進状態に対する反応として,心臓弁とそれに隣接する心内膜に無菌の血小板およびフィブリン血栓が形成される病態 」

感染性心内膜炎の発症には、弁膜疾患や先天性心疾患に伴う異常血流や、
人工弁置換術後などに異物の影響で生じるNBTE が重要。

NBTE の人が歯科・耳鼻咽喉科・婦人科・泌尿器科的処置などにより
一過性の菌血症が生じると、NBTE の部位に菌が付着,増殖し,疣腫が形成されると考えられている。

起炎菌

グラム陽性球菌(黄色ブドウ球菌、腸球菌、α溶連菌)が多い。
グラム陰性桿菌であることは少ないが可能性はある

症状

心不全症状が急性に起こることも慢性的に起こることもある

そのほかの症状は、以下のようなものがある
発熱(90%)
寒気や振戦(約50%)
食欲不振および体重減少(約30%)
易疲労感(約45%)

②治療について

治療としては、歯科領域でも扱いやすいように経口単回投与が推奨されている。
持続時間の関係からアモキシシリンが使われる。

アモキシシリン2g(250mgを8カプセル)服用する。

※動物実験で標的部位に付着した細菌の再増殖は6~9 時間で生じるとの報告があるため、血中濃度を9時間維持する必要がある。

アモキシシリンが使えない場合

以下のものが推奨されている。

・β-ラクタム系薬アレルギーの場合:
クリンダマイシン、クラリスロマイシン、アジスロマイシン

・経口不可能な場合:
アンピシリン、セファゾリン、セフトリアキソン、クリン ダマイシン

歯科領域でなぜ必要なのか?

歯科処置に伴う菌血症の発症率は、抜歯などで、ほぼ100% であり歯石除去でも高率である。咀嚼(そしゃく)や歯ブラシ使用によっても発症することが分かっている。

※多くは数分後に血液中から消失するため、「一過性の菌血症」とよばれる。
リスクが高い人は、注意が必要である。

③感染性心内膜炎の予防と治療に関するガイドライン (2017 年改訂版)(引用)

基本的にはアモキシシリン2 g の術前1 時間以内の経口単回投与を推奨している
※アモキシシリンが使えない場合は上記を参照のこと

成人の高度リスク患者

抜歯などの菌血症を誘発する歯科治療の術前には予防的抗菌薬投与を推奨する
推奨の強さ1:強く推奨する
エビデンス総体の強さB(中)

※高度リスク群(感染しやすく,重症化しやすい患者)

1)生体弁、機械弁による人工弁置換術患者、弁輪リング装着例
2)感染性心内膜炎の既往歴を有するもの
3)複雑性チアノーゼ性先天性心疾患
(単心室,完全大血管転位,ファロー四徴症)
4) 体循環系と肺循環系の短絡造設術を実施した患者

成人の中等度リスク患者 (必ずしも重篤とならないが、心内膜炎発症の可能性が高い患者)

抜歯などの菌血症を誘発する歯科治療の術前には予防的抗菌薬投与を提案する
推奨の強さ2:弱く推奨する(提案する)
エビデンス総体の強さC(弱)

※中等度リスク群

1)ほとんどの先天性心疾患
2)後天性弁膜症
3)閉塞性肥大型心筋症
4)弁逆流を伴う僧帽弁逸脱
5)人工ペースメーカー、植込み型除細動器などのデバイス植込み患者
6)長期にわたる中心静脈カテーテル留置患者

※中等度リスク群には、高度、低リスク群を除く先天性心疾患、閉塞性肥大型心筋症、弁逆流を伴う僧帽弁逸脱を含む

低リスク群

あえて予防が必要のないもの

1)心房中隔欠損症(二次孔型)
2)心室中隔欠損症・ 動脈管開存症・心房中隔欠損症根治術後 6 ヵ月以上経過し た残存短絡がないもの
3)冠動脈バイパス術後,
4)逆流のない僧帽弁逸脱
5)生理的または機能的心雑音
6)弁機能不全を伴わない川崎病の既往
7)弁機能不全を伴わ ないリウマチ熱の既往

参考資料
感染性心内膜炎の予防と治療に関するガイドライン(2017 年改訂版)Guidelines for Prevention and Treatment of Infective Endocarditis (JCS 2017)

MSDマニュアル