おまけ:μオピオイド受容体(サブタイプ)について
①オピオイドと便秘について
オピオイド誘発性便秘症(opioid-induced constipation:OIC)
便秘はオピオイド鎮痛薬治療を受けている患者の40~80%に認められる。
機序は、いくつか考えられている。
・腸間膜神経叢に存在するμ受容体で、胃内容物の排出時間が延長し、
胃前庭部および十二指腸通過が遅れる。
・小腸の運動抑制する
・十二指腸において消化液の腸管分泌を抑制して内容物の粘り気が増す
↓
大腸において蠕動運動を低下させ、排出時間が遅延、便が硬くなる
※水分吸収も亢進する
・肛門括約筋の緊張を高める 腸管に分泌するμ受容体を活性化する
↓
腸管神経叢におけるアセチルコリンの遊離を抑制し、
腸管壁からのセロトニンを遊離させ、腸管平滑筋の緊張上昇
↓
蠕動運動が低下し、便秘を引き起こす
さらに中枢作用の排便反射抑制作用もある
※膨満感、腹痛を伴うことがある
※反復投与することで起こる
※オピオイドをスイッチングすることで便秘が改善することがある
モルヒネやオキシコドンからフェンタニルに変更する
②ナルデメジントシル酸塩錠(スインプロイク)の特徴
効能・効果
オピオイド誘発性便秘症(opioid-induced constipation:OIC)
→がん患者、非がん性疼痛患者ともに使用可能
※塩野義製薬によれば、検討されていないが、コデインによる便秘にも使用可能
※スインプロイクは非麻薬性オピオイド(トラマドール、ブプレノルフィン等)によるオピオイド誘発性便秘症(OIC)にも使用可能
※効果判定の目安
オピオイド誘発性便秘(OIC)の治療目標として、
がん緩和ケアガイドブックでは、
「3~7日で評価する。患者の生活習慣に合わせた便通があり,満足していることを目標とする。」
用法・用量
「通常,成人にはナルデメジンとして1 回0.2mg を1 日1 回経口投与する」
→患者説明書にも毎日服用するように記載がある
頓服的な使用は勧められていない
※オピオイドの量は関係ない。適宜増減なし
※慎重投与
「脳腫瘍(転移性を含む)等の血液脳関門が機能していない又は 機能不全が疑われる患者」
→血液脳関門が機能していない又は機能不全が疑われる疾患として、
「脳腫瘍(転移性を含む)」
「エイズに伴う認知症」
「多発性硬化症」
「アルツハイマー型認知症」が考えられる。
腎機能に対しては?
腎機能障害患者(透析患者)への投与について、用量調整も不要
インタビューフォームより
「健康成人,軽度~重度腎機能障害患者,血液透析を要する末期 腎機能不全(ESRD)患者各6~8例に0.2mg を単回経口投与した とき,健康成人と比較し,軽度,中等度,重度の腎機能障害患 者及びESRD 患者でAUC0-inf の比がそれぞれ1.08,1.06,1.38, 0.83 倍であった。ナルデメジンは血液透析により除去されなかった」
食事の影響は?
吸収の遅れはあるが、吸収量への影響はない。
インタビューフォームより
「健康成人への単回投与では,空腹時投与と比べ食後投与(高脂肪食)でCmaxは35%減少しましたが,AUCはほぼ同様の値であり,Tmaxは空腹時の0.75時間から2.50時間に遅延しました。 食事摂取による吸収の遅延が示唆されましたが,吸収量への影響は認められませんでした」
薬理作用
腸管神経系においてオピオイド受容体に結合してその活性化を阻害する
①蠕動運動の抑制
②腸液分泌の抑制
③水分吸収の亢進を改善
↓
オピオイド誘発性便秘症(OIC)を緩和する
③おまけ:μオピオイド受容体について
μ1受容体について
脳における「鎮痛」、「徐脈」、「縮瞳」、
「尿閉」、「悪心」、「嘔吐」、「掻痒感」などに関わっている。
→鎮痛・吐き気に関与している
μ2受容体について
脊髄における「鎮痛」、「鎮静」、「呼吸抑制」、
「消化管運動抑制」など関わっている
→「便秘」なども主に中枢・腸管にあるμ2受容体へ作用することで生じる
参考資料
加賀谷肇、阿部恵江:緩和ケアにおける便秘の理解とケア
スインプロイク®添付文書インタビューフォーム
スインプロイク®錠を服用される患者さんへ、塩野義製薬
日本医師会監修: 新版 がん緩和ケアガイドブック, 2017, pp.42-46, 真興社, 東京
日本薬剤師会雑誌 2019VOL71 P125