TSAT について簡単に整理する。貧血の状態を知るための指標の1つである。
製薬会社のデータを見ていると貧血の治療薬などでは度々登場する。
TSAT: Transferrin Saturation
TSAT とは?
TSAT の意味
TSATとはトランスフェリン飽和度の事である。
簡単に言うと、鉄と結合できるトランスフェリン全体の能力のうち
鉄が結合している割合を表している。
臨床的にはTSATやフェリチンから体の中の鉄が足りているかどうか、貧血なのかどうか判断される。
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【計算式】
トランスフェリン飽和度(TSAT)=血清鉄(Fe)÷総鉄結合能(TIBC)×100(%)
※鉄は、血液中でトランスフェリンというたんぱく質に結合して運搬されている。
つまり、上記の血清鉄は、トランスフェリンと鉄が結合している状態である。
体の中のトランスフェリンの量がTIBCとも呼ばれ、総鉄結合能のことである。
その中で鉄と結合していないトランスフェリンの量を不飽和結合能(UIBC)という。
【目標値】
TSATの目標値は20%以上
【問題点】
日本透析医学会の慢性腎臓病患者における貧血治療のガイドライン2016に下記の記載がある。
知っておいた方がよいと思うので引用する。
「TSAT は、
①分子(Fe),分母(TIBC)ともに鉄以外(炎症や栄養状態など)の影響を受けやすい
②低値を示す患者ほど,鉄欠乏以外(炎症・栄養状態)の影響を受け診断精度が低下する
③日内変動が大きい
などの問題点がある.そのため TSAT 値は必ずしも絶対的鉄欠乏の診断指標ではなく,ESA 低反応性のひとつの指標として重要と考える」
※絶対的な指標でないことは知っておく必要がある
ガイドライン上の基準
【CKD 診療ガイドライン2012】
CKD 患者における鉄の評価に、血清フェリチン濃度と TSAT(トランスフェリン飽和度)が記載されている。
「鉄補充の開始基準は、TSAT20%以下、および血清フェリチン濃度 100ng/mL 以下が推奨されている。」
※フェリチンは、250 ng/mL以上には意図的に増加させない.
※補足として、「Hb<10g/dLで赤血球造血刺激因子(ESA)を開始する」と記載あり
Hbの目標値は、10~12g/dL、上限値が12g/dLの理由は、13g/dL以上では心血管イベントのリスクが考えられるためとのこと。
【日本透析医学会の慢性腎臓病患者における貧血治療のガイドライン2016】
「評価には血清フェリチン値,TSAT を用いることを推奨する.(1C)」
「ESA投与下で目標Hb値が維持できない患者において,血清フェリチン値が100ng/mL未満かつTSATが20%未満の場合,鉄補充療法を推奨する.(1B)」
【KDIGO ガイドライン2012】
「鉄剤未使用の腎性貧血患者では,Hbの増加やESAの減量が望ましい。TSAT≦30%かつフェリチン値≦500ng/mL の場合、鉄剤を投与する」
KDIGO:Kidney Disease improving Global Outcomes
参考資料
2016年版日本透析医学会:慢性腎臓病患者における貧血治療のガイドライン.透析会誌 49:2016
CKD診療ガイドライン2012
KDIGOガイドライン2012