機序については、バルプロ酸ナトリウムと抗菌薬に関して
ざっくり整理している。
カルニチンについは下記の記事を参照のこと
カルニチンについて~医薬品としての役割も~
①カルニチンについて
・アミノ酸誘導体(リジンがメチル化)
・脂肪酸をエネルギーに変えるのに必要(糖新生)
・主に肝臓と腎臓でリジンとメチオニンから合成される
・食事からも摂取される。
→動物性食品(鶏肉、魚肉、乳製品)の摂取
・分布:骨格筋、心筋、肝臓などに存在している。
・尿細管から再吸収される
(細胞膜のナトリウム依存性カルニチントランスポーターOCTN2を介する)
※L- カルニチン自体は、ドーピングの対象ではない
②カルニチン欠乏症の原因・原疾患
・摂取量や吸収の低下
・遊離カルニチンの排泄の増加
・有機酸・脂肪酸代謝異常症
・先天代謝異常患者腎不全により血液透析・腹膜透析を受けている患者
・カルニチンが含まれる経管栄養・完全静脈栄養の患者
※小児:生合成量が少ない。筋肉量が少ないため起きやすい
薬剤性のカルニチン欠乏症を引き起こす例
バルプロ酸ナトリウム(デパケン®)
抗菌薬(ピボキシル基有するもの)
※第3世代セファロスポリン系抗菌薬、経口カルバペネム系抗菌薬
セフカペン ピボキシル塩酸塩水和物(フロモックス®)
セフジトレン ピボキシル(メイアクト®)
セフテラム ピボキシル(トミロン®)、
テビペネム ピボキシル(オラペネム®)
プラチナ製剤(シスプラチン)
キニジン
ベラパミル(ワソラン®)
バルプロ酸ナトリウムによる機序
尿細管での再吸収は細胞膜のナトリウム依存性カルニチントランスポーターOCTN2を介して行われる。
バルプロ酸ナトリウムは、このトランスポーターを阻害するため
カルニチンの再吸収を抑制することになり
カルニチン欠乏症を引き起こすことがある。
ピボキシル基を有する抗菌薬による機序
ピボキシル基を有する抗菌薬は、消化管吸収を促進するために、
薬剤本体に「ピバリン酸」がエステル結合されている。
体内に吸収後、代謝を受けて「ピバリン酸」と「活性本体」となる。
「ピバリン酸」はカルニチン抱合を受け「ピバロイルカルニチン」となり、
尿中へ排泄される。
結果として、血清カルニチンが低下してしまうのだ。
補足
カルニチン欠乏状態だと
脂肪酸β酸化ができず、糖新生が行えないため、低血糖を起こす事がある
PMDAからの医薬品適正使用のお願い
(独)医薬品医療機器総合機構No.8 .2012.4
「ピボキシル基を有する抗菌薬投与による小児等の
重篤な低カルニチン血症と低血糖について
小児(特に乳幼児)への投与においては、
血中カルニチンの低下に伴う低血糖症状(意識レベル低下、痙攣等)に注意してください。
長期投与に限らず、投与開始翌日に低カルニチン血症に伴う低血糖を起こした報告もあります。
妊婦の服用により出生児に低カルニチン血症が認められた報告もあります。」
→小児で「翌日」に起こることが分かっているので注意は必要
※数週間後に起こった例もある。
翌日に症状が生じた症例
「1歳 男性 体重12kg、喘息
喘息性気管支炎にセフカペンピボキシル100mg(力価)/日を投与開始した。
発熱に伴う食事摂取量の減少もあり、
投与開始翌日より体を頻繁にピクつかせ不穏状態であり、
その翌日受診。体をピクつかせ、嘔吐あり。
検査により低血糖(45mg/dL)、低カルニチン血症が認められ、
ブドウ糖点滴、 ジアゼパム等の薬物療法の後、当日回復。」
→厚労省から出されている症例だが、たしかに疾患により食欲が低下
しているとダブルパンチでカルニチンが低下するので注意が必要だろう
③症状
低血糖、けいれん、脳症などを引き起こす
④治療について
レボカルニチン(エルカルチン®)
レボカルニチンとして1日1500㎎~3000㎎を3回に分割投与する。
予防的投与 250㎎~750㎎/日
参考資料
Melegh B,et al. Biochem Pharmacol. 1987; 36: 3405-3409.
Holme E, et al. Lancet. 1989; 2(8661): 469-473.
PMDAからの医薬品適正使用のお願い
(独)医薬品医療機器総合機構 No.8.2012年4月