最近の話題としてゾフルーザ®は耐性変異ウイルスの問題が指摘されている。
分かっていることは、
・12歳未満において耐性ウイルスが出やすい。
・耐性ウイルスにより罹病期間が長くなってしまう。
・ゾフルーザ®に対する耐性とノイラミニダーゼ阻害薬の耐性は別物。
・上手く使用することにより、ノイラミニダーゼ阻害に対する耐性変異ウイルスに使える可能性がある。
・ 免疫不全患者や重症患者では、単独での積極的な投与は推奨しない
ゾフルーザ®の使用にあたっては、各方面より提言が出されている。
下記に「国立感染症研究所」「日本小児学会」「日本感染症学会」
のものを引用している。
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バロキサビル(ゾフルーザ®)の予防投与について
インフルエンザの分類とバロキサビル(ゾフルーザ®)について~作用機序・用法など~
①国立感染症研究所では?
( IASR Vol. 40 p197-199:2019年11月)
「バロキサビルの臨床試験では、バロキサビル投与後の一部の患者から、インフルエンザウイルスのPA蛋白質の38番目のアミノ酸に変異(I38T/M/F)が検出された。この変異は、ウイルスのバロキサビル感受性低下を引き起こすバロキサビル耐性変異であることが明らかになっている。PAI38T耐性変異が検出された患者ではウイルス力価の再上昇が認められ、耐性変異を持たない感受性ウイルスが検出された患者と比べて罹病期間が延長することが報告されており、PAI38T耐性変異は症状に影響をおよぼすと考えられている。」
→ 耐性変異ウイルスにより罹病期間が延長する可能性がある。
「バロキサビルの臨床試験において、12歳未満の小児では成人および12歳以上の小児と比べて、バロキサビル耐性変異ウイルスの出現率が高く、また、A(H3N2)亜型における耐性変異ウイルスの出現率はA(H1N1)pdm09亜型およびB型ウイルスより高いことが報告されている」
→12歳未満で多くみられる
国立感染症研究所と全国地方衛生研究所が共同で実施しているバロキサビル耐性変異株サーベイランスでは?
「12歳未満の小児におけるA(H3N2)亜型のバロキサビル耐性変異ウイルスの検出率が最も高く11.7%となっている。一方、12-19歳の未成年者並びに65歳以上の高齢者におけるA(H3N2)亜型の耐性変異ウイルスの検出率も10%以上を示し、20-64歳の成人患者における検出率(1.7%)と比べて高い 」
→こちらでも12歳未満で多いという報告がある。
ゾフルーザを服用していないのに?耐性ウイルスが生じる?
「2019年2月に生後8か月の乳児がインフルエンザを発症し、翌日受診した医療機関で採取された検体からA(H3N2)亜型のPAI38T耐性変異ウイルス(A/神奈川/IC18141/2019)が検出された。患者は検体採取前に抗インフルエンザ薬の投与を受けておらず、バロキサビル未投与例であった。患者の発症前日には兄がインフルエンザを発症し、翌日バロキサビルの投与を受けた。兄の検体はバロキサビル投与3日後に採取され、A(H3N2)亜型のPAI38T耐性変異ウイルス(A/神奈川/IC18144/2019)が検出された。
A/神奈川/IC18141/2019とA/神奈川/IC18144/2019について、
次世代シークエンサーを用いた遺伝子解析を行った結果、両ウイルスの全ゲノム配列は完全に一致し、同一のウイルスであることが明らかになった。
また、このPAI38T耐性変異ウイルスは、バロキサビルに対する感受性が約190倍低下していたが、ノイラミニダーゼ阻害薬(オセルタミビル、ペラミビル、ザナミビルおよびラニナミビル)に対しては感受性を保持していた。A型インフルエンザの潜伏期間の中央値は1.4日と報告されており、感染性ウイルスの排出は発症前日から検出される」
→ゾフルーザを服用していないのに耐性変異ウイルスが見つかっている。
また、ノイラミニダーゼ阻害薬に対しては耐性を獲得していなかった。
②日本小児科学会では?
日本小児科学会
新興・再興感染症対策小委員会 予防接種・感染症対策委員会2019 年 10 月
「同薬の使用経験に関する報告が少ない事や薬剤耐性ウイルスの出現が認 められることから、当委員会では 12 歳未満の小児に対する同薬の積極的な投与を推奨しない。一方で現時点においては同薬に対する使用制限は設けないが、使用に当たっては耐性ウイルスの出現や伝播について注意深く観察する必要があると考える」
→12歳未満には推奨しない。何なら使うなというようなメッセージ
③日本感染症学会では?
日本感染症学会提言~抗インフルエンザ薬の使用について~
「バロキサビルは、ノイラミニダーゼ阻害薬とは異なる作用機序を有するため、ノイラミニダーゼ阻害薬耐性ウイルスには有効性が期待でき、新型インフルエンザ出現時での使用も期待されています。また、バロキサビルとノイラミニダーゼ阻害薬の併用については非臨床のエビデンスに限られるものの、抗ウイルス効果の相乗効果が報告されています。重症例では、保険診療上認められた方法ではなく、臨床的なエビデンスもないですが、ノイラミニダーゼ阻害薬との併用の可能性も検討されています。ただ、薬剤相互作用や副作用については未知であり、その安全性は確定されていません。 」
「当委員会では、バロキサビルの使用に関し、現在までに得られたエビデンスを検討した結果、以下のような提言を行います
(バロキサビルの単独使用を前提としています)。
(1)12-19歳および成人:臨床データが乏しい中で、現時点では、推奨/非推奨は決められない。
(2) 12歳未満の小児:低感受性株の出現頻度が高いことを考慮し、慎重に投与を検討する。
(3)免疫不全患者や重症患者では、単独での積極的な投与は推奨しない。 」
※ 小児は成人と比べてインフルエンザウイルスに対する免疫が不十分なため、ウイルスの排出量が多く、排出期間も長いことから、抗インフルエンザ薬耐性ウイルスの出現率が高いと考えられている。
参考資料
国立感染症研究所 ( IASR Vol. 40 p197-199:2019年11月)
日本小児科学会 新興・再興感染症対策小委員会 予防接種・感染症対策委員会2019 年 10 月
Omoto S, et al., Characterization of influenza virus variants induced by treatment with the endonuclease inhibitor baloxavir marboxil, Sci Rep 8: 9633, 2018 •Hayden FG, et al., Baloxavir marboxil for uncomplicated influenza in adults and adolescents, N Engl J Med 379: 913-923, 2018
Uehara T, et al., Treatment-emergent influenza variant viruses with reduced baloxavir susceptibility: Impact on clinical and virologic outcomes in uncomplicated influenza, J Infect Dis: pii: jiz244, 2019, doi: 10.1093/infdis/jiz244 •Hirotsu N, et al., Baloxavir marboxil in Japanese pediatric patients with influenza: safety and clinical and virologic outcomes, Clin Infect Dis: pii: ciz908. doi: 10.1093/cid/ciz908
Uehara T, et al., Reduced susceptibility viruses to baloxavir marboxil: Prognosis factors of the emergence and impact on clinical and virologic outcomes in pediatric patients in Japan, OPTIONS X for the Control of Influenza, September 2019, Singapore
Baker J, et al., Single-dose Baloxavir is well tolerated and effective for treatment of influenza in otherwise healthy children aged 1 to <12 years: A randomized, double-blinded, active-controlled study (miniSTONE-2, OPTIONS X for the Control of Influenza, September 2019, Singapore
日本感染症学会新型インフルエンザ対策委員会. 新型インフルエンザ診療ガイドライン.2009年9月15日
2019/2020 シーズンのインフルエンザ治療指針
―2019/2020 シーズンの流行期を迎えるにあたり―
日本小児科学会 新興・再興感染症対策小委員会 予防接種・感染症対策委員会