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在宅医療

死前喘鳴 とは?~薬の話も交えて~

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死前喘鳴(Death rattle、デスラットル)について今回は取り上げようと思う。
死前喘鳴(気道分泌亢進;increased bronchial secretions)

死前喘鳴 とは?

薬物治療としては、ハイスコかブスコパンが主体。使い慣れたブスコパンを使う医師が多いかも?

死前喘鳴について

「がん終末期」や「他の疾患終末期」の気道分泌に伴う呼吸困難のことである。亡くなられる前、死亡直前(数日前~数時間前)に喉の付近でゴロゴロと音がすることがある。この症状を「死前喘鳴(Death rattle)」という。
意識レベルの低下に伴い唾液や痰が声帯付近に貯留し喘ぐような声が出て常にゴロゴロと音がするのだ。
終末期で嚥下が上手く出来ないと、「吸気時」と「呼気時」に咽頭や喉頭部の分泌物が気道内で振動して起こる。原因である唾液や痰を吸引しても完全に取りきることは難しい。

※末期のがん患者では40~70%に生じるとされており、家族の80%が苦痛を体験しているといわれている。

※非常に細かい話をすれば、「死前喘鳴」は、タイプ1とタイプ2に分類されているが見分けるのが非常に困難(不可能)である。
この辺りは、専門医の領域なので簡単に触れる。

【タイプ1(唾液が主体)】
意識が低下して嚥下ができなくなったときに、分泌された「唾液」が咽頭に貯留して音を生じるもの。抗コリン薬が有効な可能性がある。
抗コリン薬で抑えることができる理由は、唾液を減らす作用があるためである。

【タイプ2(気道分泌液が主体)】
全身状態の悪化や衰弱のために、肺炎や肺水腫により増加した「気道分泌物」を上手く出せなくなり、溜まってしまい音を生じるもの。
こちらは、抗コリン薬の反応は乏しいと言われている。

家族の反応

介護をしている家族の考えられる反応・・・一言でいえば「見守るのがつらく感じる!」
特に、喘鳴の音が大きい時、喘鳴の持続時間が長い時、そう感じられる。

家族の反応の例としては・・・

「大丈夫かな?」
「苦しくないかな?」
「なんとかならないかな?」
「ゴロゴロという音が苦しそう」
「ゴロゴロしてて表情が苦しそう」

※支える医療従事者は、家族が喘鳴に対してどう感じているか確認することは、とても重要。

家族を支える医療従事者の対応

家族の不安を取り除くような対応、そして穏やかな最期を迎えることが大切である。

【家族へのケア】
溺れているわけではないことや意識レベルが低下している本人(患者)は、家族が思っているほど苦痛を感じていないことが多いことを説明する必要がある。また、本人がが苦しんでいるかどうかの見極めを伝えておくことも大切だる。
例えば、「手を握りしめる」、「眉間にしわを寄せる」など

【死前喘鳴の家族への説明の例】
「このゴロゴロした音は、喘鳴といいます。多くの方に見られる症状の一つで、お別れが近くなった時にみられる自然な変化です。」
「唾液を飲み込む力がなくなるために、唾液がたまってしまいます。そのためにゴロゴロという音がします。」
(意識レベルが低下している場合は)「ご本人は、私たちが思うほど苦痛は感じていませんので安心してください。」
「苦しい時には顔をしかめることが増えるなどの変化があります。それを一緒に見ていきましょう」

【唾液や痰を吸引する時の声かけの例】
「無理ない程度に口の中だけを吸引しましょう」
「口用のスポンジブラシで口の中に貯まっている唾液をふき取りましょう」

薬物治療での対応

唾液分泌を抑制する抗コリン薬の舌下または皮下投与が候補としてある。

【抗コリン薬】

気道には副交感神経に支配されているムスカリン受容体が存在しM1、M2、M3のサブタイプが気道に関連していると言われている。
M3受容体に対する抗コリン作用により気管支収縮が抑制される。
また、M1およびM3への抗コリン作用により気道分泌が抑制される。

・ハイスコ皮下注(スコポラミン)

血液脳関門の通過があるため、鎮静作用を有する
傾眠やせん妄のリスクがある
注射が出来ない場合、舌下投与することがある。その際、必要量を1mlシリンジにとって投与する。
→1mlシリンジにハイスコを少量(0.3ml~0.5ml)入れておき、家族に渡しておくとスムーズなことがある

※海外では、舌下錠が販売されている国もある

・ブスコパン®(ブチルスコポラミン)

ハイスコ®と違い、意識が低下せずに気道分泌が減ることがある
中枢神経への影響が少ない(鎮静作用、せん妄のリスクが少ない)
頻脈に注意が必要(脈が120を超えないように気を付けること)
喀痰の粘調が増して吸引しにくいことがある。

※海外では、パッチ剤が発売されている国もある。国内では軟膏を調整して使っている施設もある


・アトロピン点眼液(アトロピン)

硫酸アトロピン点眼液を舌下投与する方法だが効果はあまり期待できない。
注射など投与が不可能な場合、何もしないよりは良いという位置づけ。
スコポラミンのような鎮静作用はなく、神経刺激作用があるので注意

【その他】

・ドルミカム注射液(ミダゾラム)

抗コリン薬だけでなく、確実に鎮静をかけたいときに持続点滴を行う

・輸液の減量

1L/日以下(可能なら500ml日以下)に減量する。
輸液量を減らすことで喘鳴が軽減することがある。

【効果の比較】
ハイスコ®でもブスコパン®でも効果は同等だが,自然経過を上回る効果があるのかはわかっていない(検証されていない)
アトロピン舌下投与は自然経過を上回る効果は今のところ示されていない。

非薬物療法

・体位変換

側臥位にして頭の位置を高くするなどの位置調整をすることで、喘鳴が軽減することがある

・口腔ケア


喘鳴とは少しズレるが・・・喘鳴と同じような家族の悩みがある
終末期の唾液の分泌低下により口腔内が乾燥するため、見守る家族から口臭が気になるという訴えがある
肝臓の病気があればアンモニア臭がすることもあるため、丁寧な口腔ケアは大切である。

参考資料
Wildiers H, et al. Atropine, hyoscine butylbromide, or scopolamine are equally effective for the treatment of death rattle in terminal care. J Pain Symptom Manage. 2009;38 (1):124-33. [PMID:19361952]

Heisler M, et al. Randomized double-blind trial of sublingual atropine vs. placebo for the management of death rattle. J Pain Symptom Manage. 2013;45 (1):14-22. [PMID:22795904]