エンレスト錠の特徴 (サクビトリルバルサルタン)と心不全について触れる。
サクビトリルバルサルタン(エンレスト®)は、アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬(ARNI)である。
サクビトリルバルサルタン(エンレスト®)錠とカルペリチド(ハンプ)との違い?についても簡単に触れている。
関連記事
エンレストと高血圧症
ネプリライシンについては下記の記事を参照のこと
ネプリライシン(neprilysin)について
ガイドライン上の位置づけは下記の記事
急性・慢性心不全診療ガイドライン2021年フォーカスアップデート のポイント~各薬剤の位置づけ~
①心不全(関連事項)
心不全とは?
「心機能の低下により、息切れやむくみなどが現れ、生命予後を悪化させる状態」
様々な心臓の病気
(弁膜症、不整脈など。さらに生活習慣病はリスク因子)
↓
心臓のポンプ機能が低下
↓
十分な血液が送り出せない
※疲れやすさ、手足の冷え、尿量減少
↓
また、血流が戻りにくくなる
※むくみ、体重増加、呼吸困難
心不全の定義的な話は別記事にまとめているので、こちらを参照
慢性心不全に関与する神経体液性因子
・「交感神経系」
・「レニン・アンジオテンシン・アルドステロン(RAAS)系」
・「ナトリウム利尿ペプチド系(BNP)」
この3つの活性化が関与している。
「交感神経系」に対しては、β遮断薬が使われる。
「レニン・アンジオテンシン・アルドステロン(RAAS)系」に対しては
アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACE阻害薬)、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)」が使われる。
今まで「ナトリウム利尿ペプチド系」に作用する薬剤はなかったため
「レニン・アンジオテンシン・アルドステロン(RAAS)系」と「ナトリウム利尿ペプチド系」に作用する薬剤としてサクビトリルバルサルタン(エンレスト®)が開発された。
「ナトリウム利尿ペプチド系(BNP)」の流れ
心不全の状態で心臓の働きを頑張らせようとしてRAAS系が亢進する。
このアンジオテンシンⅡによるアンジオテンシンⅡタイプ1(AT1)受容体刺激作用に対抗するホルモンとして、
「ナトリウム利尿ペプチド系(BNP)」が分泌される。
「ナトリウム利尿ペプチド系(BNP)」がRAAS系による亢進を抑制するのである。このバランスが整っている場合は代償期であるが・・・
さらに心不全が進行すると
抑制(ナトリウム利尿ペプチド系)<亢進(RAAS系)
の関係になってしまう(心不全が悪化する)。
※BNPについては、別記事のこちらも参照
サクビトリルバルサルタン(エンレスト®)錠とカルペリチド(ハンプ)との違い?
既存の点滴薬であるカルペリチド(ハンプ®)は、α型ヒト心房性ナトリウム利尿効果と血管拡張作用を有する。
これもナトリウム利尿ペプチド系のバランスを整えるために使われるが
半減期が短い。
適応:急性心不全(慢性心不全の急性増悪期を含む)
②エンレストの特徴
心不全の病態を悪化させる神経体液性因子の一つであるレニン・アンジオテンシン・アルドステロン系(RAAS)の過剰な活性化を抑制するとともに、RAAS 系と代償的に作用する内因性のナトリウム利尿ペプチド系を増強する。
その結果、神経体液性因子のバランス破綻を是正することを目指す薬剤である。
製剤的特徴
サクビトリルとバルサルタンを1:1のモル比で含んでいる単一複合体である。
1:1で単結晶構造内に存在しており、血中に入るとサクビトリルとバルサルタンに分離し、サクビトリルはsacubitrilatに変換される。
※配合剤として2剤入っているわけではない!
※水素結合、共有結合などが関わっており、エステラーゼなどの働きで速やかに分かれるとのこと(MR曰く)
薬理作用
下記に示した2つの作用で
全身血管の抵抗性の減少や
線維化・心室肥大の抑制、
収縮力増加により、心不全の進行を遅らせる。
【サクビトリル】
ナトリウム利尿ペプチドを分解するネプリライシンを阻害
↓
ナトリウム利尿ペプチド↑
↓
利尿作用↑、血管拡張作用↑
↓
体液量が減少
↓
心負荷が軽減(心保護作用の増強)
【バルサルタン】
アンジオテンシンⅡが作用するAT1受容体を遮断
↓
RAAS系の活性化を抑制
↓
血管拡張作用、血圧低下作用
↓
心負荷作用を軽減
効能・効果
慢性心不全、高血圧症
(ただし、慢性心不全の標準的な治療を受けている患者に限る)
※欧米では、心不全のうち左室駆出率が低下した心不全(HFrEF)の治療薬として承認されている。日本の場合、適応が細分化さていないので「慢性心不全」となっている。
※心血管死、心不全による入院リスクをエナラプリルと比較して20%程度下げることが分かっている
※「標準的」→ACE阻害薬やARBを使用している人
用法用量
1日2回服用するタイプである。
また薬局に置いておく最初の規格としては100mgはどうだろうか。
100mg規格に割線があることで開始用量に対応できるので良さそうである。
「通常、成人にはサクビトリルバルサルタンとして1回50mgを開始用量として1日2回経口投与する。忍容性が認められる場合は、2~4週間の間隔で段階的に1回200mgまで増量する。1回投与量は50mg、100mg又は200mgとし、いずれの投与量においても1日2回経口投与する。なお、忍容性に応じて適宜減量する」
服用中のBNPについて
参考ではあるが、サクビトリルバルサルタン(エンレスト®)の服用による
NT-proBNPの低下で「心不全の状態」を診て、
BNPは、増加するので
薬剤による反応があるかを見ることが出来る。
※メーカーの示すデータでは、一時的にBNPは上昇後、低下してくるとのこと
→低下する理由としては、心機能の改善が考えられるらしい(調査中)
注意点
・ACEIやARBと併用しない
・ACEIとは併用禁忌である
・ACEIやARBから切り替えて投与すること
※添付文書の重要な基本的注意
「血管浮腫があらわれるおそれがあるため、本剤投与前にアンジオテンシン変換酵素阻害薬が投与されている場合は、少なくとも本剤投与開始36時間前に中止すること。また、本剤投与終了後にアンジオテンシン変換酵素阻害薬を投与する場合は、本剤の最終投与から36時間後までは投与しないこと」
注意すべき副作用
・低血圧(開始時、増量時は特に注意)
・腎機能障害(投与開始1か月は特に注意)
・高カリウム血症
・血管浮腫(頻度はエナラプリルと差はない)
・脱水
その他の特徴
・一包化→出来る(可能)
・粉砕→出来る(可能)
※25℃、RH60%で4週間の安定性が確認されている
・簡易懸濁法
※おそらく出来るが現在データなし
(調査中)
参考資料
エンレスト®添付文書、インタビューフォーム
エンレスト®メーカー問い合わせ
大塚製薬勉強会