HIF-PH阻害薬適正使用recommendation のポイント抜粋について簡単に整理する。
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HIF-PH阻害薬適正使用recommendation
HIF-PH阻害薬に関しては、まだまだエビデンスは少なく懸念される部分が多い。そのため、今後も新しい情報を得る必要がある。
HIF-PH阻害薬の作用機序・薬理作用
ポイント「人間の低酸素下での体の状態を作るイメージ」である。人間は、低酸素状態だと何とか赤血球の数を増やして体の中の酸素を保とうとするシステムが存在する。 これを利用するのがHIF-PH阻害薬である。
HIF-PH阻害薬は、プロリン水酸化酵素(PHD1~PHD3) を阻害
↓
低酸素誘導因子HIFαを安定化させる
※水酸化されていないHIF-αが蓄積する
↓
HIF 応答性であるエリスロポエチン(EPO)遺伝子の転写促進
↓
赤血球産生を誘導
※低酸素誘導因子HIFは、心不全、脳卒中、肺疾患、気圧変化及び網膜損傷などでの低酸素症に対する応答を制御するマスター転写因子である。正常酸素状態では、HIF-αは分解される。
※プロリン水酸化酵素(PHD)は転写因子である低酸素誘導因子(HIF)αを水酸化し、ユビキチンプロテアソーム系による HIFαの分解を促進させる酵素
HIF-PH阻害薬の貧血以外の効果
・脂質異常改善に伴う臓器保護への影響
・腎障害に対する直接的な効果
・ESA抵抗性貧血に対する効果の可能性
・注射剤による疼痛の回避
※ESA: erythropoiesis stimulating agents
※ESAとの併用は避けること
HiF-PH阻害薬使用上の注意点や・懸念
・悪性腫瘍
・糖尿病網膜症
・加齢黄斑変性症
※新しく癌化するというよりは、既に癌化した細胞において懸念が示されている。エビデンスは不十分
※血管新生が疾患の増悪に働くような病態(上記3つ)では注意すること。合併がないか治療は行われているか確認する必要がある。
※目関連の疾患は眼科受診を勧める。既に網膜症のある人は注意すること
・血栓塞栓症
※血栓塞栓症のリスクの可能性があるので虚血性心疾患や脳血管障害、閉塞性動脈硬化症、深部静脈血栓症の人は適応の可否を判断する必要がある。
・肝機能異常
※中等度以上の肝機能障害(Child-Pugh 分類 B)を認める場合は、減量を考慮
・高血圧
・高カリウム血症
・血管石灰化
・肺高血圧症
・心不全
・多発性腎嚢胞の増大
・糖や脂質代謝への影響
HIF-PH阻害薬適正使用recommendationにおける鉄補充
基本的に引用であるが、一部改変している。
「血栓塞栓症の警告がなされていること、および鉄欠乏と血栓塞栓症と関連することを鑑み、 HIF-PH阻害薬使用中の鉄補充カットオフをフェリチン<100ng/mlまたはTSAT<20%に設定することが妥当」
「HIF-PH阻害薬開始時に急激に造血が亢進することで、TSATやフェリチンが著しく低下する症例があるため、開始1か月後には、TSATとフェリチンを再評価し、鉄欠乏があれば鉄補充を行う」
「HIF-PH 阻害薬開始時に急激に造血が亢進することで,TSAT やフェリチンが著しく低下する症例があるため,薬剤開始1カ月後には,再度これらのマーカーを評価し,鉄欠乏があれば鉄を補充する。」
「クエン酸第二鉄やスクロオキシ水酸化鉄などの鉄含有リン吸着薬によっても鉄が補充されることを考慮する」
※目標ヘモグロビンHbを達成できない場合、鉄欠乏状態を評価した上でHIF-PH阻害薬の増量より鉄補充を優先すること
参考資料
日本腎臓学会
HIF-PH 阻害薬適正使用に関する recommendation 2020 年 9 月 29 日版