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酸化マグネシウム(マグミット)が効かない場合の理由3選

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酸化マグネシウムが効かない場合の理由3選を取り上げたい。
便秘薬として本当に良く使われる酸化マグネシウム。慢性便秘症診療ガイドライン2023でも
エビデンスレベルはAである。
定期的なマグネシウム測定が推奨されていることは別にして・・・
そもそも酸化マグネシウムが効かないケースがあるのだ。それを知っておくと診療の現場での便秘の悩みが解消されるケースがあるため紹介したい

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酸化マグネシウムが効かない場合の理由3選

この記事の内容をざっくりいうと以下の3点
①H2ブロッカーやPPIとの併用時
②胃の切除患者
③水分を摂らない/取れない患者

酸化マグネシウムで知っておいて欲しいこと

まず第一に、酸化マグネシウムの作用の仕方(作用機序)を理解しておくと
「効かないケース」をなるべく避けることが出来る。

【作用機序】

酸化マグネシウムは、服用後に「胃の中の酸性下」で「塩化マグネシウム」となる。
その後、「腸の中」で「炭酸水素マグネシウム」となって効果を発揮するタイプの薬である。

「炭酸水素ナトリウム」になった「重炭酸塩」と
「炭酸マグネシウム」になった「炭酸塩」によって
腸の中の浸透圧が上がり、浸透圧の維持のため腸壁から水分を引っ張って
便を柔らかくするのだ。
さらに、腸の中の内容物が膨張して腸管に刺激を与えることで排便を促す。

ちなみに、効果発現までの時間は1時間から6時間程度である。

※この最初のステップである「胃の中の酸性下」が重要となってくる。

【作用機序(化学反応式)】

MgO
↓HCL(胃酸)
MgCL2
↓2NaHCO3(膵液に含まれる)
Mg(HCO3)2

MgCO3

①胃酸を抑えるタイプの薬を併用しているケース

胃酸を抑える代表的な薬剤は、H2受容体拮抗薬(H2ブロッカー)とプロトンポンプ阻害薬(PPI)がある。
ただ単に、逆流性食道炎や胃潰瘍などで併用しているだけでなく、低用量アスピリンなどと併用されている場合もあるので定期薬として患者が内服しているケースは多い。
この手の「胃酸を抑える薬」を飲んでいる場合、胃酸の分泌が減っているため、
酸性マグネシウムによる緩下作用が減弱することになる。
胃酸を抑える薬剤を併用する場合は、酸化マグネシウムでの排便コントロールに注意が必要である

②胃を切除しているケース(特に全摘している場合)

胃を切除している場合、全摘はもちろんのこと一部切除しているケースでも胃酸の分泌が減るため酸化マグネシウムの効果が落ちることが考えられる。
ご存じの通り・・・胃がん患者などで手術をする場合がある。例を少し上げようと思う

【胃切除術の例】

〇胃上部にかかる進行胃がん、早期胃がんで幽門側の意を半分以上残すことが困難な場合
⇒胃全摘術

〇噴門にかからない胃がん
⇒幽門を含めて胃の出口側約3分の2を切除(幽門側胃切除術)

〇胃体部の早期がんのうち、噴門・幽門からある程度距離があるもの
⇒幽門と噴門を切除せず、その間の胃の部分を切除する(幽門保存胃切除術)

〇胃上部の早期がん(幽門側の胃を半分以上残すことが可能な場合)
⇒噴門側胃切除

①と②のケースに関連する論文を紹介

ざっくり結果だけを載せる。胃酸の重要性が分かるのではないだろうか・・・

〇酸化マグネシウム単独で排便コントロール良好患者率は、72.2%
〇H2ブロッカー併用群で排便コントロール良好患者率は、36.4%
〇PPI併用群で排便コントロール良好患者率は、36.4%
〇胃全摘群で排便コントロール良好患者率は、0%

Yamasaki M,et al,: Eur J Clin Pharmacol 2014;70:921-924

※投与量に関しては、酸化マグネシウム単独が最も少ない
※H2ブロッカーとPPIを併用した場合は効果は半分ほど減弱する可能性あり
※胃全摘患者は、そもそもコントロール良好な例がほとんどない

【補足】
In vitroの実験においてpH4.5とpH1.2の環境下を比べると
酸化マグネシウムの溶解度は1/40に減弱する。
また、PPIを定期的に服用している場合には、pHが4以上を示す割合が70~80%あり、この時間帯での服用では、効果が期待できないことになり、酸化マグネシウム効果不十分となる。
結果・・・酸化マグネシウムを増量するケースも少なくない。

③水をそもそも飲まない

循環器疾患などで飲水制限されているようなケースもあるが
高齢者などは、トイレなどを気にして飲水をしっかり出来ていない場合がある。
酸化マグネシウムの効果を発揮するためには
体内に水分がないと効果が出にくいため・・・
飲水制限をしていたり、飲水をあまり出来ない(しない)患者には不向きである。

薬剤選択の代替案

便通異常症診療ガイドライン2023を参考にすると、代替案としては以下の薬剤が挙げられる。
・モビコール配合内用剤(高分子化合物PEG)
・アミティーザカプセル(ルビプロストン)
・リンゼス錠(リナクロチド)
・グーフィス錠(エロビキシバット)
など

※刺激性下剤のセンノシドは頓服使用の方が良い

参考文献
Yamasaki M,et al,: Eur J Clin Pharmacol 2014;70:921-924
日本消化管学会編,便通異常症診療ガイドライン2023